筑 波 の 鴉
 そのお壺を渡しなさい。お前の御用は済んだのです。
 このお使いは、旦那様より直に仰せ使ったもの、たとえ番頭さんのお言葉でも旦那様にお渡しするまでは、信太郎の役目が済ません。
 はい、お申し付け通りに持ち帰り番頭さんにお渡し致しましたが?
 信太郎、その壺がここにあります。中を見てみなさい。

 あ〜あ〜あ〜、壊れてるぅ〜〜〜
 人の運命の儚さは、空にちじれる浮雲の、末は霞か是非もなし、このお嬢様の手の温もりを、しっかり胸に抱しめて、永のお別れいたします。
 信太郎ぉ〜行かないでぇ〜〜
 兄貴ぃ、今日は町長さんや県議のの先生が来て下さって挨拶まで頂いてうれしいねぇ  考えて見りゃあ弥の吉も馬鹿な男よ、商人にも成れず、渡世人にも成れず、身代食い潰して哀れな者よ。      それが為に親分も随分儲けさせて貰いましたからね、へへへへへ。  物が物だから奮発して、十両ってところだな。
 ちょっと待って下さいませ、じゅ十両なんて、親分さんそりゃああんまりだ。笠間の壺と言ゃあ仲間買いでも百両とは下らない品物で御座います。十両なんて・・・。
 お待たせ致しました、さあお嬢さん一杯に入れておきましたよ、でもねお嬢さんこんな事を言っちゃあなんですが、若旦那には困ったものですねぇ。お嬢さんだけが苦労しなすって・・・
 それを思うと・・・(涙)
 百里の道を一里に見立て、早る心を草鞋に聞かせ、さめて安否を垣根越し思い叶えば幸いと尋ねてみればこの有様、あんまりだぜ・・・お天道様ぁ〜〜  これは芝居なんだ、だからここには一応壁がある事になってるの芝居だからこうしなくっちゃあ、お客さんにウケないの。
 あああ、壁があるんだぁ〜〜、でも開いてるぜ。
 俺らぁ手前が憎いっ・・・ その思いだけでこの八年間生きて来た信太郎だっ。手前ぇから受けた仕打ちの数々に心を病んで身を崩し、あげくの果てが、見ての通りの成り下り者、誰がこんな男にしやがったんでぇ〜〜  気の向くままの渡り鳥、六十余州当ても無い股旅掛けてさすらい暮らし、それじゃあ千世さん・・・いよいよお別れですぜ、  おっと、雪に成ってきやがった。
 お達者で・・・・・
 この野郎! 胴馬の兼五郎にようそこまで突っ掛かったなっ、勘弁ならねぇ野郎達っ!
 切り刻んで川に放り込んでおけっ。三下のくせしやがって・・・太ぇ野郎だっ
 あっ弥の吉っ!
死ねっぇぇー
 うわぁっっ・・・て、手前ぇぇぇ・・・
 旦那みておくんなせぇ、べっとりと着いたこの血糊、なんの詮議も要らぬ筈、旦那どうか引っ立てておくんなせぇ・・・
 長ぇようで短い人の世だったぜ、フッと思い出なぁ壺屋に居た頃の事、忘れよう、忘れなきゃあと必死になって心に誓ったが、それが高じて見る夢が醒めりゃあ尚更増す寂しさ・・・とうとう思いを振り切って一足二条の草鞋掛け、はやる心で尋ねてみりゃあ・・・
 こんな事ならぁ・・・帰ぇって来るんじゃあ・・・なかったぁっっっーーー